当時交際中だった彼氏とカラオケボックスに行ったときの体験です。その日は年末の金曜日、深夜のカラオケボックスはどこも満室状態で、私たちは普段は利用しない学生向けの安い造りの店にようやく個室の空きを取ることができました。何となく薄暗く汚れた雰囲気の店ですが、料金設定が安く、個室の空きがあったということには代えられません。それでも店内は学生風のグループで混みあっていました。朝までのフリータイムコースを選び、数時間経った深夜の3時前。私はドリンクバーに飲み物を取りに行き、個室に戻る途中です。私のすぐ前方を同じ方向に、若い女性が歩いていました。ラメの入った黄色いキャミソールにデニムのショートパンツ、コルクの厚底サンダルで、相当酔っているのか足取り覚束ない様子です。進行方向が同じなので彼女の真後ろをついて行く形で後ろ姿を何となく見ながら歩いていると、彼女が私と彼氏の個室のドアを開けて入っていきました。酔って自分の戻る部屋番号を間違えたのか、きっとすぐ驚いて出て来るだろうと待っていましたが、数日待っても彼女は出て来ません。部屋番号を間違っているのは私の方かと確認しましたが、確かに私の部屋です。
不思議に思っているとドアが部屋の中から開きました。
「大丈夫か?遅いから探しに行こうかと思った」。彼氏です。私はすぐ彼に「さっき入って来た女の子は?」と訊きましたが、「誰もこの部屋に入って来たりしていない」と彼氏は言います。確かに狭い個室の中に、さっき入って行った彼女が隠れるような空間があるわけでもなく、まず入って来た時点で彼氏も気づいて反応している筈でした。「ごめん、帰ろう」。私は彼氏を急き立てて、店を出ました。何故なら、私は彼女が部屋に入る後ろ姿は見たのに、出て来る姿に会っていません。あの個室の中に彼女がまだいるということに気づいたら、もうその部屋にはいられませんでした。帰り道、明るい通りに出てから、彼氏にカラオケボックスで私が見た彼女のことを説明しました。すると彼氏は首をかしげ、「……なあ、いくらギャルみたいな格好でも、この真冬日に素足にサンダルという人はいないんじゃないか?」。あの彼女は、今もあのカラオケボックスの店内を、真夏のような格好でさ迷い続けているのかもしれません。
不思議に思っているとドアが部屋の中から開きました。
「大丈夫か?遅いから探しに行こうかと思った」。彼氏です。私はすぐ彼に「さっき入って来た女の子は?」と訊きましたが、「誰もこの部屋に入って来たりしていない」と彼氏は言います。確かに狭い個室の中に、さっき入って行った彼女が隠れるような空間があるわけでもなく、まず入って来た時点で彼氏も気づいて反応している筈でした。「ごめん、帰ろう」。私は彼氏を急き立てて、店を出ました。何故なら、私は彼女が部屋に入る後ろ姿は見たのに、出て来る姿に会っていません。あの個室の中に彼女がまだいるということに気づいたら、もうその部屋にはいられませんでした。帰り道、明るい通りに出てから、彼氏にカラオケボックスで私が見た彼女のことを説明しました。すると彼氏は首をかしげ、「……なあ、いくらギャルみたいな格好でも、この真冬日に素足にサンダルという人はいないんじゃないか?」。あの彼女は、今もあのカラオケボックスの店内を、真夏のような格好でさ迷い続けているのかもしれません。
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