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山口県長門市で生まれ育った私が、小学校低学年の頃に体験した話です

更新日:2022-01-06 09:42:38
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山口県長門市で生まれ育った私が、小学校低学年の頃に体験した話です。
蝉時雨が遠くの方で微かに聞こえる程度になった長月の夕方、同じクラスの友人達と昔ながらの遊びで盛り上がり、つい門限を忘れてしまった為、慌てて帰路を、自転車をぐんぐんと漕いで走っていました。
私が住むのは、辺り一面山や畑に囲まれた田舎の方でしたので、車はおろか人もほとんど見かけなかったのですが、この日は違いました。
ふと、私がもうすぐで横切る更地を、背に哀愁をまとい見つめる男性が居る事に気付きました。数秒見ただけですので、こちらに背を向けた状態で顔も分からず、歳も中年程としか分かりませんでした。
見覚えがある気がする、と気にはなりましたが、すぐに頭の中は門限の事で埋め尽くされ、再度その人物について思考したのは夜の帳が下りた九時頃でした。
そろそろ寝る時間だと自室に向かう際、夜は長いと酒を片手に顔を赤らめて謳う父に、帰り際の事を話しました。
すると父は、
「その人、まっちゃんじゃないか?」
先程とは打って変わって真剣な面持ちで、聞き覚えのある名を口にしました。
今では田舎でも見かけなくなった駄菓子屋さんを、営んでいたまっちゃん。最後に会ったのは、私が遠足のお菓子を一人で買いに行った時でした。どうしても食べたいお菓子があったのですが、五円だけ足りず買えなかったので、
「おまけをしてあげられたら、良いんだけどね」
そう、眉尻を下げて困った笑顔でまっちゃんに言われた事を覚えています。
なぜそんな顔をするのか、その疑問の答えを知ったのは、もう少し成長をしてからなのですが、どうやら経営難に陥っていたようなのです。
借金を背負いながらも、大好きな子供達の笑顔を見る為にお店を続け、そして借金は増え。そうして負の循環を繰り返していたのですが、私がお菓子を買いに行った日の翌日、彼はとうとう、店と共に自死してしまったのです。焼身自殺でした。
焦げた臭いと、紅の炎の色が、自室にまで届いて来たのは幼かった私の記憶に鮮明にこびり着いています。
あの日、私がまっちゃんの姿を目にする事が出来たのは、まっちゃんが私に対して申し訳ないと思う未練があったからなのでしょうか。それとも、これは考えすぎなのでしょうか。
ただ、いくら考えようにも彼を見かけたのはこの日だけでしたので、なぜ見る事が出来たのか、真相は分かりません。
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