渓谷に建った大型旅館
千歳楼は、定光寺駅にほど近い玉野川の渓谷斜面に建てられた温泉旅館でした。斜面に沿って複数の棟が階段状に連なる独特の構造を持ち、最盛期には団体客で賑わったといいます。
しかし団体旅行需要の減少とともに経営は悪化し、2003年頃に廃業。建物は解体されないまま放置され、渓谷に巨大な骨組みだけが残される状態が長く続きました。
「女将の噂」について
千歳楼を語るうえで必ず出てくるのが、「廃業後に女将が館内で自ら命を絶った」という話です。この噂はインターネット上で爆発的に広まり、千歳楼が全国区の心霊スポットになる決定的な要因となりました。
しかし編集部が確認した限り、この話を裏づける報道や公的な記録は存在しません。廃墟の不気味さと廃業という事実が結びついて生まれた、典型的なネット発の噂と見るのが妥当です。実在の経営者について事実無根の話が広まっている可能性が高く、扱いには注意が必要です。
荒らされ続けた廃墟
知名度の上昇に伴い、千歳楼には侵入者が絶えなくなりました。窓ガラスは割られ、内装は破壊され、壁は落書きで埋まりました。放火未遂も発生し、地元では長年にわたって深刻な問題となっていました。
定光寺は尾張徳川家の廟所がある由緒ある寺院で、周辺は本来ハイキングや紅葉で知られる場所です。心霊スポットとしての名声が、地域にとってほぼ純粋な負担にしかならなかった事例と言えます。
解体と現在
危険な建物として問題視され続けた結果、千歳楼は解体が進められました。かつての巨大な姿はすでに失われています。「廃墟を見に行く」という目的で訪れても、得られるものはありません。
敷地は私有地であり、無断立入は不法侵入です。過去には実際に摘発された例もあります。定光寺と玉野川渓谷、そして近隣の愛岐トンネル群の紅葉は本来素晴らしい観光資源です。この地域を訪れるなら、そちらへ足を向けることをおすすめします。