静岡のトンネルは「三つの型」に分かれる
静岡県は、東海道の要衝として古くから交通路が集中し、鉄道・道路ともに多くのトンネルが掘られてきました。その中で心霊の噂が語られるものを並べると、立場の違う三つの型があります。
ひとつめは、いまも列車が走る現役の鉄道トンネルです。丹那トンネルがこれにあたり、坑内には入れません。ふたつめは、文化財として保存された石造の隧道で、旧天城トンネルがその代表です。みっつめは、新しいトンネルができて旧道となり、通行はできるものの人通りが減った隧道で、旧本坂トンネルが挙げられます。
同じ「心霊スポット」でも、型が違えば訪れ方も、噂の生まれ方も違います。以下、型ごとに見ていきます。トンネル全般に噂が集まる理由は、なぜトンネルに心霊の噂が集まるのかで整理しています。
型1:現役の鉄道トンネル——丹那トンネル
熱海駅と函南駅の間にある丹那トンネルは、全長約7.8キロ。1918年に着工し、1934年に開通した東海道本線のトンネルです。大量の湧水や崩落事故、北伊豆地震などが重なる難工事で、工事全体で67名が殉職しました。
心霊の噂は、この殉職の史実と結びついて語られます。ただし坑内に立ち入れない現役の鉄道施設のため、噂は特定の地点を持たず、車窓からの体験談の形をとります。熱海側の坑口の上には丹那神社があり、毎年4月に例大祭が営まれてきました。噂を確かめに行く場所ではなく、史実を知って手を合わせる場所です。
事故の年や人数は資料によって記述が分かれる点も含め、丹那トンネルの心霊の噂と史実の詳細で検証しています。
型2:国指定重要文化財の石造隧道——旧天城トンネル
伊豆の天城峠にある旧天城トンネル(天城山隧道)は、全長445.5メートル、幅員約4.1メートルの石造トンネルです。現存する石造の道路トンネルとしては国内最長とされ、2001年には道路トンネルとして初めて国の重要文化財に指定されました。
心霊の噂は語られますが、編集部が確認した限り、具体的な事故や事件の公的な記録は見つかりませんでした。長く暗い石造の内部で音が響く環境や、『伊豆の踊子』の舞台という物語の記憶が、独特の気配として受け取られていると考えられます。
重要文化財への落書きや接触は損傷にあたります。見学は昼間に、案内表示に従って行ってください。詳しくは旧天城トンネル(天城山隧道)にまとめています。
型3:旧道化した隧道——旧本坂トンネル
静岡県浜松市と愛知県豊橋市の境にある本坂峠は、東海道の脇往還として女性の旅人に多く使われ、姫街道と呼ばれました。旧本坂トンネルは、新本坂トンネルの開通で旧道となった隧道で、通行はできますが狭く暗い場所です。
交通量が減って薄暗い旧隧道の雰囲気が、噂を育てたと考えられます。人影や声を聞いたという話はありますが、確かな裏づけはありません。古道を歩く歴史散策の途中で通るのがふさわしく、夜間の肝試しは近隣の迷惑になります。詳しくは旧本坂トンネルをご覧ください。
三つに共通すること——史実と環境が噂の形をつくる
どの型にも共通するのは、噂の中身よりも、噂が生まれる条件の方が確かだという点です。丹那には殉職の史実、旧天城には長く響く暗い石造の内部、旧本坂には人通りの減った旧道という条件があります。こうした条件に、聞き知った話が重なって、体験談の形になっていきます。
編集部は、噂そのものを否定も肯定もしません。ただ、どのトンネルにも、本来の姿——幹線を支える土木遺産、文化財、古道の遺構——があります。噂から入った人にも、その素顔まで知ってほしいと考えています。
訪れる前に知っておくこと
丹那トンネルは鉄道用地で、坑内や線路への立入は禁止されています。旧天城トンネルは重要文化財で、損傷にあたる行為はできません。旧本坂トンネルは通行できても、夜間は狭く暗く危険です。三つとも、昼間に、ルールを守って訪れてください。
「立入禁止の場所に入ったらどうなるのか」「管理者のいる廃墟や私有地はどう扱われるのか」といった疑問は、心霊スポットは不法侵入になる?廃墟・立入禁止の法律と行く前の注意で整理しています。静岡県内のほかのスポットは、全国心霊スポットマップから都道府県別に探せます。
文化財の隧道としては、静岡市と藤枝市の境にある宇津ノ谷トンネル(明治トンネル)もあります。こちらは国の登録有形文化財の煉瓦造トンネルで、初代が火災で崩落した来歴を持ちます。